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岩澤里美 「原発はいらない!」―スイスで100%自家発電の快適生活も
岩澤里美
 

 

 

 

    Global Press
             2011年05月23日

電力会社からの送電線が繋がっていない家々。チューリヒ州・ヘーリーベルクにて。(写真提供Werner Weber、Eveline Frei。そのほかは筆者撮影)

 

 日本の原発事故以来、原発5基が稼働中のスイスの人たちの間でも脱原発エネルギーへの関心が高まっている。  スイスでは、「原発と水力などの混合電力(最も安い傾向にある)」「水力と太陽光」「風力と太陽光」「水力100%」「太陽光100%」というように、電力会社は様々なタイプの電力を販売していて顧客が選べる。日刊紙ターゲス・アンツァイガー (2011年3月18日付) によると、日本の原発事故の後、原発電力の混ざっていないタイプに切替える顧客が目立っている。チューリヒ州の電力会社のチューリヒ市電力(EWZ)には毎日約30件、チューリヒ州電力(EKZ)には震災5日目だけでも100件以上の申込みがあったそうだ
また、太陽エネルギー関連の業界団体スイスソーラーの統計を見ると、太陽光発電システムは2008年以来購入者が大幅に増えているが、原発事故を受けて、チューリヒでは太陽光発電取扱店への問い合わせが急増していると聞く。

 日本でも、原発の電力に頼らないで今後のエネルギーをどうしたらよいかと考えている国民は今たくさんいるだろう。

 チューリヒ市郊外に、こうした動に先立って原発の電力を使わない方法を思案してきた人がいる。エヴェリン・フライさんとパートナーのヴェルナー・ヴェーバー氏だ。2人は、海抜約460mの小高い場所に昨秋できたばかりの4軒の家のオーナー。4軒のうちの1軒に子ども2人と住んでいる。この一角には電力会社からの送電線がなく、電気と熱の両方を生む「コージェネレーション」と「太陽光発電」を併用して、4軒分の消費電力の100%を自分たちで作っている。

 「コージェネ」と略されるコージェネレーションは電気を使う場所で発電するため、従来の遠くの発電所からの送電と比べると送電ロスがなくなる。発電時の排熱を給湯や暖房などに利用するので、その分の熱エネルギーの燃料消費が抑えられて省エネになり、CO2排出量も削減できる。環境保全に役立つシステムで、欧州では日本よりも普及が進んでいる。

 

 フライさんらのコージェネでは、チューリヒのガス会社ヴィトガツ・スイス(VitogazSwitzerland)からLPガス(プロパンガス)を購入している。当初はバイオガスを使おうと思っていたが、燃料に必要な木くずや家畜の糞尿などが集まらず、バイオガスは将来的な課題としている。

 

 太陽光発電のパネル(33平方メートル)は、自動車用エレベーターの屋根に取り付けてある。「ソーラーパネルは今では普通になりましたが、20年前は町並みの景観が壊れるといって設置を許可しない役所もありましたよ」。フライさんは、スイスで自然エネルギーが受容されてきた様子を語った。

ダブル発電を蓄電する大型バッテリー。昨年9月から今年4月25日までの全体発電量比はコージェネ78%対太陽光22%だが、好天だった3月以降のみだと58%対42%。夏はさらに太陽光発電の数値が高まり60%以上にまでなるはずだという

   
 日本でも、フライさんのところと同様にコージェネと太陽光発電を利用することはできる。しかし、消費電力の100%をカバーすることはできず電力会社からの電力にも頼らざるを得ない。フライさんたちが完全に独立した発電を行なえるのは、生産した電力を大型バッテリーに蓄電しているからだ。このバッテリーの耐久年数は20年。完全な放電状態にはならない仕組みで、バッテリーがフル充電されたり、日中ソーラー発電量が十分なときはコージェネは自動的に止まる。

 日本でも蓄電システムを導入した実証実験が進められている。フライさんたちが実証しているように実用化はそう遠くないだろう。当初は2人の考えを周囲の人は誰も信じなかったというが、「【不可能なんてありえない】を信条として生きているので、この方式に何の疑いもなかった。今回の日本の原発事故で、私たちの考えが間違っていなかったと確信した」とフライさん。

 2人は商用電力を一切買っていないにもかかわらず、電力を節約している様子はない。

 「わが家はオーブン2台、大型食器洗浄機2台に、もちろん冷蔵庫もあります。そのほか洗濯機・乾燥機、パソコンなどすべて揃っていて、家電品を何もあきらめる必要がありません」とフライさんは室内に案内してくれた。地下の共同駐車場への自動車用エレベーターまで設置している。駐車場はスイスで初めてという天井全面LED照明がほどこされている。「まったく普通の生活をしていますよ。とても快適です」。ヴェーバー氏は商用電力がなくても困ることはないと胸を張る。

 2人は売電の面でも独立独歩だ。スイスには日本のような余剰電力買取制度がある(期間はスペイン、ブルガリアと並んで25年契約で他国よりも長い)。フライさんたちの4軒は未入居者がいるため、その分を余剰電力として販売できるが、売電には当然ながら電力会社への送電線が必要で、この一角に送電線を新規に引く費用が1300万円もかかる。結局2人は売電を止めることにした。
 


iPhoneともリンクした、便利なタッチパネル式画面。室温設定などが一挙にできる

 フライさんの家のもう1つの特徴は、最新のデジタル技術を楽しめることだ。玄関を入ってすぐの壁にタッチパネル式パソコン画面があり、「家の各階の間取り図」が表示される。間取り図で、各部屋の室温や天上照明・コンセント・ブラインドの状態が一目で分かる上、画面上で室温設定や天上照明の点灯・消灯・明るさの度合、ブラインドの開閉などが指1本で一挙に調整できる。

 しかも画面はiPhoneや外部のパソコンとリンクしていている。外出の時に設定室温を下げて帰宅直前に設定室温を上げるようにiPhoneで操作して、到着した時に快適な暖かさにすることさえできるのだ。「ニュースサイトにもリンクしているんですよ。何でもできて、すごいです。操作が楽しい」。フライさんは指1本で次々に画面を切り替えて見せてくれた。子どもたちも、もうすっかり操作に慣れたという。

 気になる自家発電装置の費用は明らかにしていないが、規模が大きいためかなり高額だという。ただ今後はコストが下がりそうだ。自家発電装置の設計・施工をしたACE 社のディーター・ツェアファス氏は「バッテリーの値段は、これからどんどん安くなる」と断言する

 

 


拡大(左から) ヴェルナー・ヴェーバー氏
、お子さん、エヴェリン・フフライさん

 

 日本では原発は安全だといわれてきた。だが今回の福島の原発事故により、それは単なる宣伝だったと悟った人たちは少なくないはずだ。

 安定しているといわれる原発の電力をあきらめることは、節電を絶えず気にすることになるかもという不安を伴うだろう。しかし、原発以外の技術を使っても、こうして現代的な生活を享受することは十分できる。フライさんとヴェーバー氏は「わが家のシステムは世界中のどこでも設置可能だ」と話し、今後どんどん広まっていくことを願っているという。

※2人の自家発電装置のホームページ(http://www.swisseiland.ch/5101.html)問い合わせは英語かドイツ語。

《付記》 このコージェネに不都合が生じたときのことも考えてある。ガスを使う非常用発電機も設置しているのだ。非常用発電機で作った電力は多量の電力がかかる乗用エレベーターと自動車用エレベーターにはいかず、住居にだけで送られる仕組み。非常用発電機は数日間もつという。

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